江戸時代に爛熟期を迎え、日本の伝統美術の極致として世界的愛好者をもつ『浮世絵版画』。赤裸々な欲望で浮世絵の技術と美術性を高めた春画の名品を時系列に構成。浮世絵研究の国際的権威、故林美一氏のコレクションを中心に、これまで顧みられなかった絵巻、艶本、肉筆の名作まで含め構成した画期的な浮世絵・春画DVD映像集。春画とともに記された文章の朗読も一部収録されている。浮世絵師たちの業績を美術史、風俗史の観点から捉え、理解しやすい解説をしたカラー解説本も同封した作品。春画ということで、毛嫌いされる方もあるだろうが、近くはDVDやVHS、古くは演芸、書籍に至るまで、多くの文化発展がエロという人間の根本的欲望に牽引されてきたことも事実だろう。浮世絵という文化の発展の歴史として浮世絵・春画の世界を楽しんでいただければ幸いである。
■解説書44ページ
■DVD全2枚 / 258分
菱川師宣、西川祐信 〜江戸のエロスを追求した力強い画風
「浮世絵六大家」の一人にして浮世絵の元祖と言われる、菱川師宣。縫箔刺繍の家に生まれた菱川師宣は、京都で狩野派、土佐派の絵画を学び、 1600年代中頃、江戸で吉原の遊女や芝居狂言を題材に、風俗画に力を注いだ。木版画を主とし、肉筆画を従とする浮世絵の伝統の基礎を築き、初期浮世絵春画の代表とされる。代表作『恋の極み』は初期浮世絵の奔放さと力強さを存分に発揮しており、モノトーン主体の菱川師宣の春画はエレガントでダイナミックな仕上がりである。
鈴木春信、磯田湖龍斎 〜奔放な性の営みを錦絵の彩りで描きだす
1700年代に活躍した浮世絵師、鈴木春信は、京都の浮世絵師や上方の狩野派絵画、さらに16世紀中国絵画の鮮麗な美しさも取り入れ、多色摺の版画、錦絵を創始した。優れた彫師、摺師にも恵まれ、美しい色彩を持つようになった浮世絵、錦絵の時代が始まるのである。市井の女性の日々の営みの中に美を求めていく浮世絵・春画。春画がエロから文化に昇華したのはまさにこの頃だったのではないだろうか。鈴木春信の『風流江戸八景』『風流座敷八景』『中判名作選』に加え、磯田湖龍斎『色道取組十二番』なども収録。
喜多川歌麿、鳥居清長、鳥橋斎栄里 〜息をのむ美しさ。濃密なる愛
1700年代後半、浮世絵の代名詞の一人、喜多川歌麿が登場する。幼くして狩野派・鳥山石燕に学んだ喜多川歌麿は、当時、商才と気骨を謳われた草紙問屋・蔦屋重三郎の後押しで江戸文化の表舞台に躍り出る。当時、江戸の町には狂歌が流行り、従来の常識や節度を大胆に打ち砕く気風が溢れていた。喜多川歌麿もまた狂歌の挿絵、美人画、さらに枕絵にも取り組み、十返舎一九の艶本挿絵『ねがひの糸ぐち』や『艶本葉男婦舞喜』などの傑作群を世に送り出す。蔦屋重三郎が手鎖の刑を受けるなど、規制とのせめぎ合いの中、浮世絵、錦絵はさらに発展を続ける。
葛飾北斎 〜迸る人間讃歌。傑作『縁結出雲杉』の誕生
喜多川歌麿、写楽の時代を過ぎ、江戸末期に差し掛かると、大浮世絵師・葛飾北斎が世に出る。和漢洋各種の画法を広く学んだ葛飾北斎は、役者絵、美人画、力士絵、社会風俗画などに加え、小説の挿絵や雑版画を描き、また戯作者を志して数編の小説も創作している。葛飾北斎というと風景版画『富嶽三十六景』が著名だが、春画の名人であったこともよく知られている。傑作『縁結出雲杉』は、葛飾北斎62歳のとき、特別限定版として刊行されたものである。『東にしき』も収録。
渓斎英泉、柳川重信 〜快楽に溺れていくデカダンス
武家に生まれ、狩野派に学び、若くして喜多川歌麿と並び称せられた反骨の浮世絵師・渓斎英泉。しかし同時に歌川國貞、歌川國芳と共に退廃浮世絵師とも言われた。花魁や芸者、遊郭の女たちを描き続けた渓斎英泉。彼自身、色町によく通じ、その風俗風習や官能的な雰囲気に精通していた。身も心も遊郭に耽溺することで他を凌駕する浮世絵・春画を生み出したのだ。極彩色で描く閨房の出来事『艶本華の奥』は“淫”の中に“超然の美”を求めた渓斎英泉の狂気を今に伝えている。南蛮人などの珍しい交合図を含む異色の春画、柳川重信の『柳の嵐』なども収録。
歌川國貞、歌川豊國、歌川國芳 〜江戸艶本、妖艶の世界
豪華絢爛を謳われる江戸末期の浮世絵・春画。その立役者が歌川國貞、歌川豊國(二代目)、歌川國芳である。役者絵をはじめ、挿絵、枕絵と縦横無尽の活躍を続けた歌川國貞は、連年、趣向を凝らした話題作、豪華本を発表し、江戸艶本の覇者として君臨したという。収録の『吾妻源氏』は『正冩相生源氏』『艶紫娯拾餘帖』と合わせ、『國貞の三源氏』と呼ばれ、卓絶した彫摺技術とともに、絶品と呼ばれる江戸浮世絵・春画の最高峰である。