明治の文豪、森鴎外は、科学の最前線に立つ医者の顔と、規律を重んじる軍人の顔、同時に人の心に深くくいいる小説家の顔・・・3つの思想を内包した人物だった。
時にして相反する回答へと導く森鴎外の小説は、多面的な人間の素顔を愛情を持って丁寧に描き出している。単純ではない人間の深さ、弱さ、そこに人間の味があるのかもしれない。
森鴎外朗読集 - 最後の一句 / 高瀬舟
最後の一句 【作】森鴎外 【朗読】中村恵子
「父を殺す代わりに私たちを殺してください」
16歳の娘いちはは、弟や妹を連れ、死罪を申しつけられた父親のために、奉行所へ赴く。奉行との問答の最後に、いちは最後の言葉をつけくわえる。
「お上のことには間違いはございますまいから」
この最後の一句をどう感じるか。信頼に対し信頼で応える、そのあたりまえのことを忘れてはならない。特に上に立つ者はそうである。官僚でもあり、軍人でもあった森鴎外の心のあやを垣間見る名品。
高瀬舟 【作】森鴎外 【朗読】渡部龍朗
徳川時代、京都の罪人は高瀬川を舟で大阪に下り、島流しに処せられていた。或る夜、護送役の同心 羽田庄兵衛は、罪人 喜助の晴れやかな顔に驚く。
弟を殺し、島流しに処せられる喜助。彼の身には何が起こったのだろうか・・・。
現代でもなお、大きな問題となる安楽死。文豪でもあり医者でもあった森鴎外が、安楽死と親族殺し、
二つの問題に真正面から切り込んだ作品。
生きているとはどういうことか、愛情とはどういうことか、私たちの永遠の課題かも知れない。