石松金毘羅代参
愛妻・お蝶の仇、保下田の久六と悪代官を討ち果たした清水次郎長。願掛けした金毘羅さまにお礼参り、お蝶が最も可愛がった森の石松に代参を頼みます。条件が一つ。道中、酒は一滴も飲むなよ・・・そりゃ無理だと、断る石松。行け、と次郎長。「跨ぐ敷居が死出の山、雨垂れ落ちが三途の川、そよと吹く風無情の風・・・」。石松の道中が始まります。
石松三十石道中
「くいねぇ、くいねぇ、スシくいねぇ」の流暢な名台詞で有名な笑いたっぷりの滑稽浪曲。金比羅さんへの代参を無事に果たした森の石松。大阪から京の伏見へと三十石船で淀川を上ることに。「次郎長こそが街道一の大親分!」と語る江戸っ子に酒と寿司を振る舞う石松。いい調子で子分の品定めが始まるが、大政、小政、鬼吉、法印・・・いってぇ森の石松はどこいった!
石松と身受山鎌太郎
京都見物の後、石松は草津追分で一夜の宿を求める。宿を貸したのは、当世売出中の貸元・身受山鎌太郎。お蝶の七回忌に香典の真似事がしたいという鎌太郎だが、正直、石松、ポッと出の鎌太郎が次郎長と五分の付き合いか・・・と内心馬鹿にする。ところが鎌太郎、香典百両に、これは石松の小遣いにと三十両をポンと出す。鎌太郎の度量と付き合いを大切にする人の情けに、思わず胸が熱くなる一席。
石松と都鳥一家
遠州(今の静岡県東部)まで辿り着いた森の石松。顔見知りの都鳥兄弟と出会う。石松兄貴に会った以上、ただで帰せるわけがない。酒盛り一晩付き合ってくれ。甘い言葉に誘われて酒を飲んだが運の尽き。金に困った都鳥、狙いは石松の懐の中。都鳥の窮状に思わず貸し与えた百三十両。明日返す、明後日帰すと日延べされ、ついに気づいた。騙された。森の石松一生の、不覚と悔やむ、転の一席。
石松と七五郎
都鳥に欺された石松、清水に帰れず困っているとバッタリ出会った兄弟分。小松村の七五郎、事情を聞いてただ一言「都鳥が金を返すはずがねぇ。百両は俺が拵えてやる」。実は七五郎、石松の死んだ父から息子のことを頼むと託されていた。喧嘩ばかりで迷惑かけた親父の親心。あたたかさとありがたさに、石松も聞いている我らも涙する。しみじみと聞かせてもらう感動の一席。
閻魔堂の欺し討ち
七五郎と、その女房のお民と楽しい酒盛りを満喫した石松だが、止める七五郎たちに暇を伝え、都鳥の家に戻る。しかし、都鳥のもとには保下田の久六の残党が泊まっていた。金を返したくない都鳥三兄弟と、久六の仇を討ちたい残党たち。石松を騙し討ちにしようと話がまとまる。前半の楽しい酒盛りから一転、緊迫感あふれる展開となる次郎長伝随一の有名作。
お民の度胸
都鳥一家に襲われ、血だらけになりながらも、兄弟分の七五郎の元に辿り着いた石松。七五郎は石松を押し入れに隠すと、女房のお民に迷惑がかからぬよう、「石松の代わりに切られて死ぬので、ここで夫婦の縁を切ってくれ」と頼む。しかしお民、「惚れて一緒になったんだ。一緒に死のう」と笑って返す。遂に都鳥一家が七五郎の家にもやってくる。殺気立つ都鳥の下郎どもに、お民の啖呵が響き渡る・・・。
石松の最後
都鳥一家は去ったものの、このままでは七五郎たちに迷惑がかかると思った石松は、浜松の医者に診てもらうと言い、草鞋をはく。しかし石松が向かったのは、あの閻魔堂だった。「石松は卑怯者だ!」石松を探す都鳥一家のそんな話を耳にした石松。我慢がならなかった。命を捨てるとわかっていても飛び出さずにはいられない、石松の意地が鮮やかに描かれる、次郎長伝指折りの泣け場。
為五郎の悪事(一)
「あっと驚くタメゴロー」の出典となった本座村為五郎が登場する巻。森の石松を殺害した都鳥一家は、本座村為五郎の元に転がり込む。石松殺害をすでに知っていた為五郎だったが、次郎長一家がやってきたと聞くと、都鳥一家を物置に隠す。知らぬ仲ではない次郎長と為五郎。敵か味方かわからないまま、次郎長伝最大の曲者・本座村為五郎が生き生きと演じられる。
為五郎の悪事(二)
石松の死を次郎長たちに伝える本座村為五郎。大政は石松に兄貴風を吹かしてばかりいたことを悔やみ、次郎長もまた男泣きする。次郎長たちの無念、石松への憐憫の情がひしひしと伝わる名シーン。「誰が殺したか知っているな」。次郎長の言葉に、為五郎は物置を指さすのだった・・・。
追分三五郎
次郎長一家に仇と狙われる都鳥一家。次郎長の主だった子分11人が河豚にあたり死んだ。次郎長も虫の息だと聞き、今こそ返り討ちのチャンスと清水に乗り込む。斬りこむのは真夜中と、清水の手前の追分宿の旅籠で時を待つ都鳥一家だが、運よく(運悪く?)ここに次郎長の子分、追分三五郎が同宿していた。都鳥の悪だくみを知り、追分三五郎は清水にひた走るのだった。
追分宿の仇討ち
三五郎の知らせを聞いた清水次郎長。飛んで火にいる夏の虫。先手を取って追分宿、都鳥一家が逗留する旅籠に殴りこむ。ここで石松の仇討をさせてほしいと頼む次郎長。石松の死を悲しんでいた旅籠の主人に承諾をもらい、都鳥一家と対決する。森の石松戻ってこぬが、せめて捧げる死出の連れ。勘弁石松成仏せよと、きらめく刃が赤く染む。